東京ヒューマンライブラリー協会 | 多様性を育む「生きている図書館」

Q&A

「ヒューマンライブラリーを開催してみたい人のために」

Q.自分もヒューマンライブラリーをやってみたいが、準備期間はどれくらい必要ですか?

A.今年(2018年)に入って、初めて開催する人が増えています。2017年末にNHK「おはようニッポン」で紹介されたり、2018年6月にはテレビ朝日系列の「スーパーJチャンネル」で取り上げられたことも要因の一つですが、今年度から高校2年生の英語の教科書でも「リビングライブラリー」(ヒューマンライブラリーの旧名称)で紹介され、いよいよヒューマンライブラリーの知名度も少しずつ知られるようになってきたようです。
ところでお尋ねの開催準備期間ですが、規模によっても異なります。「生きた本」を何冊(人)集めて開催するか。私(坪井)は、最小人数2冊(人)で12畳程度のコミュニティカフェで開催したことがあります。小規模開催なら「本」役が決まればすぐに開けるでしょう。読者も2冊で各1回ずつの対話なら、読者も2~5人程度ですから仲間内でできます。私の場合、2冊で開催した例は、街中のコミュニティカフェでの実験的開催でしたが、カフェの主人との交渉などで1ヶ月程度要しました。
通常は、小規模と言えども、5~6冊程度の本を揃え、土曜日の午後半日程度を使って行うことが多いようです。そうした場合、最低2ヶ月程度は見ておく必要があります。
第一に、開催日と会場の確保です。それが決まらないと、「生きた本」集めもできません。読者を集めるための広報もできないでしょう。しかし、最低3ヶ月の準備期間を設定して、開催日を決めた方が無難です。最初は欲張らず本の数もこのくらいから始めた方が楽でしょう。


Q.ヒューマンライブラリーを開催するのにどれくらいの費用がかかりますか?

A.ヒューマンライブラリーは、基本的に非営利のボランタリーな活動です。したがって、「生きた本」の出演者にも謝金は支払いません。交通費と弁当支給程度が一般的です。
本一冊に要する金額は交通費実費もありますし、1000~4000円程度とまちまちです。仮に2000円としても2冊(人)で4000円、弁当代500円としても1000円です。つまり5冊~6冊で、1万円~1万5千円ということになります。しかし、実際はチラシを作ったりポスターを用意したり、「本」協力者と喫茶店で打ち合わせたり、打ち合わせのための交通費を加算し、開催時のプログラムなどの配布物や会場案内などの掲示物の印刷代を計上すると、5万円から6万円は必要となるでしょう。もし、スタッフを有料ボランティアにするならさらに多くの経費がかかることになります。
しかし、その費用は読者から直接徴収しないことが慣例になっています。企業などでの従業員向けの委託開催の場合は、委託した会社から費用を徴収できますが、読者からは直接徴収しないのが通例です。理由はヒューマンライブラリーは「公共図書館の本」という設定になっているからです。公共図書館では入館料が発生しないのと同じです。しかし、最近、その慣例を破る有料開催の例が出てきました。講演会と抱き合わせで1000円程度というのは理解できますが、2冊か3冊の生きた本を30分間借りるのに2500円の入館料を徴収するのは考え物です。もちろん、それでHLで商売しているわけではないのでしょうが、ヒューマンライブラリー本来のボランタリー精神から逸脱する恐れがあります。


Q.「生きた本」はどうやって集めればいいのですか?

A.「生きた本」を集めるのに王道はありません。身近な知り合いなどから紹介してもらうのが本来だろうと思います。身近な知り合いがいない場合は、積極的にそうした人たちの集まりに参加して関係性を構築することです。実は、ヒューマンライブラリーはそうした見知らぬ人たちのネットワークづくりに貢献するイベントでもあります。私たちの「HLによるまちづくり」はそうした手法によるマイノリティとマジョリティを結ぶまちづくりです。もう一つ、生きにくさを抱えた人たちは自分たちのカテゴリ―以外の人たちとつながりを持っている場合が多々あります。一つの「自助グループ」の人に「生きた本」として協力してもらい、その人と信頼関係が築けると他の「生きた本」を紹介してもらえるケースが多々あります。「生きた本」との信頼関係の構築も本探しの早道でもあります。一般的な方法は、Webサイト、テレビや新聞、書籍などのメディアに露出している人なら、生きた本役を引き受けてくれるチャンスが大きいでしょう。但し、講演料並みの報酬を要求されるケースもありますので、要注意です。


Q.スタッフは何人ぐらい必要ですか?

A.HLの開催規模によって違ってきます。先ほど言ったように、2冊で2回の対話でしたらスタッフは一人でできます。小規模開催で本の数5~6冊、対話3~4回程度、半日開催では、スタッフは3~5人いれば可能でしょう。しかし、私は、スタッフは多いほどいいと言っています。仕事が大変だからではありません。スタッフは暇なときには読者になれます。つまり、読者の体験者を増やしHLファンを獲得するためにスタッフを増やすのです。スタッフとして参加した人、仕事の合間に一緒に読者体験した人はHLファンになる可能性も大きくなります。従って、手伝ってくれる人は多ければ多いほど良いと思います。


Q.具体的にどうやって運営すればいいのですか?

A.具体的な運営方法を知る手っ取り早いのは、読者としてHLを体験してみることです。そのHLがどのように運営されているかを見ると、その通りにできなくとも大いに参考になります。特に、日本のヒューマンライブラリーでは、「同意書」に証明してもらって、「本を傷つけない」という約束をするケースがほとんどです。「同意書」の中身は、実際に参加して手にするとわかりますが、本の話を録音しない。Webサイトなどに公開しない。何を聞いてもよいが、本が答えない権利があるなど。様々な注意事項があり、それに同意した人だけが、実際に「生きた本」との対話に臨める仕組みになっています。 対話する読者の人数も主催者が決めています。最小人数は1人、最大でも5人程度に限定しています。少人数対話がヒューマンライブラリーの生命線だからでもあります。では、本を借りられなかった人はどうするか。主催者によっては、人数制限なし出入り自由の「ミニ講演会」を用意しているところもあります。待ち時間に利用できます。講師は「生きた本」が自是了解の上、交代で務めますが、経験豊かな本役が務める場合が多いようです。その他細かな運営方法は、直接お尋ねください。


Q.開催に当たって注意することは何でしょうか?

A.よく聞かれる質問に、偏見をも持たれやすいカテゴリーの人が本役になることが多いが、心ない読者によって傷ついたり、トラブルになることはないのでしょうか、という質問です。初めて開催する人の最大の心配であり、「生きた本」役をお願いする場合にも、これが不安なら責任をもってお願いできません。実は、私(坪井)も初めて開催した時は、心配しました。トラブルに備えて警察署に行き事前に出動をお願いしたくらいです。しかし、結果は全くの杞憂に終わりました。不思議に思われるかもしれませんが、これまで100回以上開催されている国内のHLでも対話中のトラブルは全く報告されていません。それがHLの特筆すべき特徴でもあります。なぜなのか。それはHLの対話空間が心理的に特殊な非日常的空間が無意識的に作られているからでもあります。ヒューマンライブラリーは「仮想演劇空間」になっています。社会的弱者のマイノリティが対話の主導権を握る「語り手」を演じ、日常はマジョリティである社会的強者が対話の受け手である「読者」を演じる立場に置かれています。そうした力関係の逆転がマイノリティの「生きた本」に勇気と自信を与え、マジョリティの先入観の判断を停止させて共感性を高める効果をもたらしています。そんな複雑な心理的機制が、単純に設定された対話空間では働いています。誰でも簡単にできるイベントでありながら、その効果が絶大なイベントです。是非一度やってみてください。


⇒こうした疑問に、このHPで紹介した参考文献が役立ちます。是非ご覧ください。
⇒開催支援のために、当協会のアドバイザーが直接伺って指導・助言することもできます。どうぞご利用ください。

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【参考文献】 AMAZONからも購入いただけます

・駒大坪井ゼミ編著『ヒューマンライブラリー事始め』 人間の科学社 2012

・坪井・横田・工藤編著『ヒューマンライブラリー』 明石書店 2018